ミシェル・トゥルニエ『メテオール(気象)』より

メテオール(気象) (文学の冒険シリーズ)

メテオール(気象) (文学の冒険シリーズ)

「第二十二章 広げられた心」から。

 丸い月が顔を出し、梟の叫びが夜をよぎる。陸風が吹いて、白樺の枝は揺れて絡み合い、砂地にできた大きな水溜りはひそかな音をたてる。青白く光る海の舌は、つぶれて後ずさりしては、再びふちを寄せてくる。赤い惑星は、ギルド港の入口を知らせる浮標の、同じく赤い光に敬意を表してまたたく。低地の草が腐植土を食んでいる音が聞こえる。天球を東から西にかけて移動する星の、かすかな足音が聞こえる。
 一切は徴であり、対話であり、内緒話なのだ。空も、大地も、海も、たがいにささやき交わしたり、独り言をつぶやいたりしている。ぼくは、アイスランドで精霊降臨祭の前夜に出した問いの答えを、今ここに見出した。それがまた実に単純なのだが、双子が自分の言葉−−隠れ言語−−を持っているように、片割れの双子もまた自分の言葉を持っている、ということだ。片割れになり、遍在性を授かった隠れ言語の話し手は、あたかも自分の気分から発せられた音のように、物の声を聞き取る。単独者にとっては単に血の脈動や、心臓の鼓動や、あえぎや、胃に溜まったガスの音や、腹の鳴る音にしか聞こえないものが、片割れになった隠れ言語の話し手には、世界の歌声として聞こえる。それは、たった一人の相手に向けられていた双子の言葉が、相手を失った結果、砂や風や星に語りかけるようになるからだ。もっとも秘密の部分が普遍的になる。ひそやかな囁きが崇高な力強い声に高められる。