フランシス・ベーコン『ノヴム・オルガヌム(新機関)』より

ノヴム・オルガヌム―新機関 (岩波文庫 青 617-2)

ノヴム・オルガヌム―新機関 (岩波文庫 青 617-2)

「〔序詞〕」から。

 彼にとっては、人間の知性が自分であくせくして、(人間の能力のうちにある)正しい援助を冷静・適切に用いず、そこから事物についてのさまざまな無知と、この事物の無知から数知れぬ障害の生ずることが確信されていた。それゆえ果して何らかの仕方で、かの精神と事物との交渉(これと匹敵するものは地上には、もしくは少なくとも地上的なものではほとんど見出されない)が、全体として革新されうるか或いは少なくとも好転されうるか、全力をあげて努力すべきであると考えた。しかしすでに勢力を得、またいつまでも得ようとする誤謬が、(もし精神がひとりだけに任された場合)、或いは知性固有の力により或いは論理学の援助及び補助手段によって、そのまま次々に訂正されるということには、全く何の希望も存しなかった。なぜならば事物の最初の概念、精神が安易で無雑作な吸い上げで取り出し、貯えそして積み重ねるそうした概念(そこから他の一切のものが出てくる)は、誤り混乱し、かつ軽率に物から抜き出された概念であるし、また第二次および残余の概念においても、これに劣らず気まぐれで不安定なものがあるからである。そしてそこから出てくることは、我々が自然の探究に関して使用するそうした人間的理性全般が、正しく取りまとめられ組み立てられてはいず、いわば何か土台のない巨大な建物のごとくだということである。というのも、人々は精神の偽りの力に驚嘆し賞賛しながら、(もしも適切な補助が与えられそして精神自身も事物に順応し、かりにも無為に事物をあしらうようなことがなければ)、存在しうるはずのその真の力を見逃し失ってしまうからである。残るところはただ一つ、事をよりすぐれた助けを得て新たに試みること、そして諸学と技術および一切の人間的教学の、正当な基礎から立てられた全体的革新が起こることであった。