エドガー・アラン・ポー「暗号論」より

ポオ小説全集 4 (創元推理文庫 522-4)

ポオ小説全集 4 (創元推理文庫 522-4)

 ざっと一見しただけでは、暗号をつくりあげるためのこれらさまざまの方式は、一種の測り知りがたい秘密の雰囲気を帯びているように思われる。このような複雑な方法で書き記されたものの謎を解くことはほとんど不可能事と見えるのである。そして或る種のひとびとにはその困難はまさに大であろうけれども、他のひとびと−−暗号解読に習熟した者たちにとっては、この種の謎はまことに単純きわまるものなのである。読者に心に留めていただきたいのは、これらの事柄に関する限り、すべての解読技術の基礎は、言語そのものが形成されている一般規則なのであって、したがって特定の暗号を支配している特定の法則とか、それのキイの構成とかにはまったくかかわりがないという点である。暗号の謎を読み解く上でのむつかしさは、決してかならずしもそれをこしらえた人の骨折りの大きさや工夫の精巧さとかに比例するものではない。事実、キイというものが役にたつのは、もっぱらその暗号にたずさわる当事者にとってだけなのである。第三者によってそれが読まれる場合、キイについて参照すべきものは何もない。秘密の錠前はこじあけられるのである。上に挙げて来た暗号記法の種々の方法において、次第に複雑さを増して来ていることが看取されよう。だがこの複雑さは陰翳だけのものである。なんの実体もありはしないのだ。それは単に暗号を作る側にとっての複雑性で、解く側には何の関係もない。