坂口安吾「私は誰?」より

坂口安吾全集〈15〉 (ちくま文庫)

坂口安吾全集〈15〉 (ちくま文庫)

 私はいつも「これから」の中に生きている。これから、何かをしよう、これから、何か、納得、私は何かに納得されたいのだろうか。しかし、ともかく「これから」という期待の中に、いつも、私の命が賭けられている。
 なぜ私は書かねばならぬのか。私は知らない。色々の理由が、みんな真実のようでもあり、みんな嘘のようでもある。知識も、自由も、ひどく不安だ。みんな影のような。私の中に私自身の「実在」的な安定は感じられない。
 そして私は、私を肯定することが全部で、そして、それは、つまり自分を突き放すことと全く同じ意味である。