ウラジミール・プロップ『昔話の形態学』より

昔話の形態学 (叢書 記号学的実践)

昔話の形態学 (叢書 記号学的実践)

p.186-

 以上のことから、方法論にかかわるきわめて重要な帰結が得られます。
 昔話は、形態学的には互いにきわめて緊密な同族・同系関係にあるという私たちの省察が当っているなら、このことから出てくる帰結は、所与の種類の昔話〔たとえば、魔法昔話なり動物昔話なり〕の筋は、どの筋も、他の筋を考慮せずに研究することは、形態学的にも、発生論的にも、不可能である、ということです。現に、異種レベルで要素を入れ替えるならば、それによって、ある筋は別の筋に変換されます。むろん、なんらかの一篇の話を、それの総ての異伝をふくめ、そのあらゆる分布に及んで研究するという課題は、きわめて魅惑的ではあります。しかし、フォークロアたる魔法昔話にとっては、実は、こうした課題は、その設定の仕方からして、信頼しえないものです。たとえば、取り上げた話のうちに、"不思議な馬"なり、"恩にむくいる動物"なり、"賢い女房"なり、といった類〔の要素〕がふくまれており、しかも、それら〔の要素〕が、単に、〔取り上げた異伝のうちに示されているような〕結びつきの中でのみ、研究されるということになったなら、そうした結びつきの中のいかなる要素も、徹底的には研究されないであろう、ということになりかねません。そのような研究から得られる結論は、信頼できない、ゆらぎやすいものとなるでしょう。なぜなら、そのような要素のいずれも、別の〔筋のうちで〕用いられている例に出会いうるし、したがって、それらの要素のいずれも、その歴史をもちうるからです。〔したがって〕これらの要素は、総て、まず初めに、それらがあれこれの話の中でどう用いられているかということとは関係なしに、それだけ独立させて研究する必要があります。民間伝承の説話が、私たちにとっては、いぜんとしてあいまいさに充ちみちている現在では、私たちは、まず第一に、個々の要素を、個々ばらばらに、しかし、あらゆる説話資料にあたって、解明する必要があります。「不思議な誕生」、「禁止」、「呪具の贈与」、「逃走/追跡」などなどといった類の要素の総てが、それぞれ一篇の独立した研究論文にあたいする〔テーマ〕です。むろん、そうした研究は、〔対象を〕説話にのみ限定することはできません。これらの要素の大多数は、他の古型の習俗・文化・宗教その他の現実にさかのぼるものです。〔したがって〕これらの現実も、比較のために、引き合いに出す必要があります。個々の要素の研究の後には、すべての魔法物語がそれに基づいて組み立てられている基軸[……]を、発生論的に研究するという課題が続かねばなりません。さらに必ず解明されなければならないのは、変形[メタモルフォーゼ]の規模と〔具体的な〕形です。こうした点が解明された後にはじめて、個々の〔話の〕筋がどのようにして創られたか、個々の筋とは何であるかという問題の解明にもとりかかることができます。