荻生徂徠『弁名』より

日本思想大系〈36〉荻生徂徠

日本思想大系〈36〉荻生徂徠

 生民より以来*1、物あれば名あり*2。名は故より常人の名づくる者あり。これ物の形ある者に名づくるのみ。物の形なき者に至りては、すなはち常人の睹[み]ること能はざる所の者にして、聖人これを立てて*3これに名づく。然るのち常人といへども見てこれを識るべきなり。これを名教と謂ふ。故に名なる者は教への存する所にして、君子これを慎む。孔子曰く、「名正しからざればすなはち言順ならず」と。けだし一物紕繆*4すれば、民、その所を得ざる者あり。慎まざるべけんや。

*1:人類発生以来

*2:物事があればその名称がある

*3:形のない物を明確にして

*4:誤る