森達也『放送禁止歌』

放送禁止歌 (知恵の森文庫)

放送禁止歌 (知恵の森文庫)

「第3章 放送禁止歌 日本vs.アメリカ「デーブ・スペクターとの対話」」より

森「……部落差別について、デーブはどう思ってる?」
デーブ「日本的な差別だよね。外見上は全然差異がない。文化や習俗にも差異はない。つまり、宗教や民族などが差別の要因ではない。こんな差別は世界でも珍しいよね」
森「どうして消滅しないのだろう?」
デーブ「日本人の君がシカゴ生まれの僕に聞くの? 個人的な見解だけどこのままじゃ難しいよ。なぜなら僕が日本に来てからの印象だけでも、部落差別という問題はどんどん、……何ていうのかな。潜っていってるという印象が強いよ」
森「潜る?」
デーブ「そう、人の意識の下に。あるいは社会の制度の下に」
森「なぜだろう?」
デーブ「簡単には比べられないけど、黒人差別に反対する運動に立ち上がった人たちは黒人だけじゃない。南北戦争もそうだし、公民権運動以降、差別される当事者の黒人だけでなく、差別する側の白人が、自ら問題提起をし始めたときに運動の展開は大きく変わったんだよね。でも部落差別の問題を提起するのは、多くの場合、差別される側、つまり解放同盟しかいない。差別って、差別される側じゃなくて差別するほうに問題があるわけじゃない? 差別する側のほうがもっともっと現状についての認識を深めて、主体的に運動に参加していくのなら状況は変わると僕は思う」