ベンヤミン「物語作者」より
ヴァルター・ベンヤミン「物語作者」より。
退屈とは、経験という卵をかえす夢の鳥だ。
続いて。
話を物語るとは、つねに、話をさらに語り伝える技術なのである。そして、話がもはや記憶にとどめられなくなると、この技術は失われていく。ひとが話に聞き入っているあいだに、織られ、紡がれるということがもはやなくなってしまうので、この技術は失われていくのだ。
もう一つ。
物語作者の課題とは、経験という生の素材を−−他人のであれ自分のであれ−−手堅く、有益で、一回限りのやり方で加工すること、まさにこのことにあるのではないか?[……]彼の才能とは、自分の生を物語ることができるということであり、彼の尊厳とは、自分の生の全体を物語ることができる、ということである。物語作者−−それは、自分の生の灯芯をみずからの物語の穏やかな炎で完全に燃焼し尽くすことのできる人間のようだ。
この評論を読んでみると、(「経験の貧困」化の話からはじまるので一見そう読まれがちだが)ベンヤミンは決して「物語」が絶滅したと考えているのではなく、新聞などの「情報」に対抗する形で、「現代」における「経験の伝達」がどうあり得るかについて模索しているということが読み取れる。最早共同体的な経験の伝達が可能ではない地点において、物語を語るということはどのような意義をもつのか。それは、「経験の伝達」の不可能性において「物語」の問題を提出するという点で、ある意味で経験の「遺産相続」の問題であるとも受け取れるかもしれない。
色々論点はあると思うのだけどひとまず、ニコライ・レスコフを焦点に書かれるこの論は、同時にベンヤミンのエッセイ形式の方法論が非常によく出ている文章だと思う。
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