ニーチェ『ツァラトゥストラ』より

ツァラトゥストラ (中公文庫)

ツァラトゥストラ (中公文庫)

P.476-

 あなたがたは、山の洞窟から吹きおろす風のようにふるまえ! 風はおまえが吹く笛の音に合わせて舞おうとする。その舞う足の下で、海はふるえ、踊る。
 驢馬に翼を与え、牝獅子の乳をもしぼる、この奔放不羈な、よい精神を讃えよう。今日と選民とに属する一切に嵐のように吹きかかる精神、−−
 −−あざみの頭、卑小な雑念だらけの頭、枯れしぼんだ葉と雑草、これらすべてに敵意をいだく、この猛々しい、自由な、よい精神を讃えよう。それは沼と悲愁のぬかるみの上でも舞う、緑の草地で舞うように。
 やせ犬のような選民とできそこないの陰気なやからのすべてを憎むこの精神、あらゆる自由な精神者にやどるこの精神を讃えよう。それはすべての暗く見る目、ただれ目のなかに埃を吹きこむ哄笑する嵐だ。
 あなたがた高人たちよ、あなたがたにおける最悪なことは、あなたがたすべてが踊ることを学びおぼえなかったということだ。−−当然あなたがたがすべきように−−あなたがた自身を超えて踊ることを学びおぼえなかったということだ。あなたがたが出来上がりの不十分な品であることが、なんだろう。
 なんと多くのことが、なお可能であるだろう。だから、あなたがた自身を乗り超えて哄笑することを学べ。あなたがたの胸を高くあげよ、高く、もっと高く! よい踊り手よ。そしてよい笑いの声をも忘れるな。
 哄笑する者のこれらの王冠、バラの花を編んだこれらの王冠、これらの王冠を、わたしの兄弟たちよ、わたしはあなたがたに投げかける。哄笑をわたしは聖なるものと宣言した。あなたがた、高人たちよ、学べ−−哄笑することを。