山岸涼子『天人唐草』

後輩が貸してくれたので読んだら、非常に面白かった。

天人唐草 (文春文庫―ビジュアル版)

天人唐草 (文春文庫―ビジュアル版)

「天人唐草」「ハーピー」「狐女」「籠の中の鳥」「夏の寓話」の五篇を所収の、作者の自選作品集。
「天人唐草」は時代錯誤なまでに旧弊な家に育てられた女性が、成長の果てに狂気へ至るまでの話。
ハーピー」は、学校である女生徒を「ハーピー」だと疑いはじめてしまった男子生徒の話。
「狐女」はとある田舎の富豪宅に貰われてきた、悪魔のような怜悧さを持った少年の話。
「籠の中の鳥」は「鳥人伝説」のある村で育てられた少年が身寄りをなくし、その伝説を追っていた研究者に引き取られる話。
「夏の寓話」は、広島の原爆の幻影として現れた少女を見てしまった青年の話。
モチーフとしては、最後の「夏の寓話」以外はどの短編も「共同体的な呪縛が生んだ苛烈な想念が、主人公の生(と性)を悲劇へ導く話」という点で共通しているだろうか。どの話の主人公もある種の純粋な鋭さを持っていて、それが社会との接触によって崩壊を示してゆく様子を繊細かつエロティックに描き出す手腕は確かなもので、どれも痛々しい話ながら、つり込まれるようにして読み終えてしまった。
ここに描かれているのは、この世の中に放り出されてあることの残酷さと美しさ(美的という意味ではなく)−だという気がする。坂口安吾が言ったように、そういうところを「ふるさと」として、「物語」というか「寓話」が生まれるのではないだろうか。佳篇揃いの一冊。