塩田明彦『カナリア』

というわけで早速みてきました。映画情報もほとんどシャットアウトしてたんで、久しぶりにぴあを読んで決めて行った映画。
カナリア』公式サイト http://www.shirous.com/canary/
わたしの結論は「面白い」ということに尽きる。久しぶりに映画みたせいだろうか? いや、やっぱり映画が面白いからだろう。
社会的な面からすると、ついにオウムをこういう形で表すことができる時代になったのかという感慨があった。一昔前なら、その当否は別として、決してこういう作品は社会的に出てこなかったであろうと思われるものがついに出てきたかという感じ。もちろん森達也の社会的影響なんかも大きいんだろうけど、おたく的なるものやら何やら、80年代以降抑圧されてきたものの回帰がここ数年は頻繁に見られる。この『カナリア』ではオウム以降の子供たちの生が描かれているので、オウム的なもののコアな部分に対しては描かないという態度が明確なんだけれども(「尊師」の存在はほのめかされるが、重要なのはそれをとりまく人間関係の中の問題であったりする)、それにしてもここまで教団内部の生活も題材にできた作品が生まれたことは興味深い。あ、一応言っておきますけど、オウムをオウムとして描いているのではないですし、そういった時代的な問題の回帰に対しては(教団崩壊後年月が経ったことが言及されてる)自覚的な映画だと思います。
映画としては、何より役者たちの演技がすばらしい。主演の石田法嗣谷村美月の演技のうまさには、舌を巻くばかりですよこれは。塩田監督は才能のある美少女の発掘にかけては超一流ですね。谷村さんの眼の演技はすごいっていうか脱帽。石田くんも何か不穏な存在でありながら優しさを持っているところが出ていていい。わたしとしては同じ子供が主演で似たテーマを描いていても、『誰も知らない』の撮り方(柳楽優弥くんたちはいいんですが)より遙かにいいと思います。
脚本や映像もすごくよく練られていると思います。緩急もちゃんとついてるし。『害虫』にあったような不穏感もうまく生きてます。ただ、ラストシーンと、その後の音楽に対してはおそらく拒否反応が出ると思いますね。これをどうとらえるかなんですが、わたしとしては甘い結末にしないためにワザとぶち壊すような勢いの音楽を入れたのではないか、と好意的に解釈したい。ある種の世俗性というか世間を入れたというか(監督はマントラと言ってますが、この場合おそらく同じことでしょう)。石田くんの髪についても……まあいいんじゃないでしょうかねー? まああの解決は超人的なんで(っていうかキリスト?)、確かに残された道はそれしかないかもしれない。確かにそれだけの強さが皆あれば世の中うまくいくんだろうけど皆そこまで強いわけじゃない、そしてそこに組織活動としての宗教団体が生じてしまう、というところをどうしてゆくか……なんでしょうけどね。
ただわたしとしては、この映画はいろいろな見方がありうるとおもうけど、傑作だと思います。暗くなってきた陸橋の上を石田くん谷村さんが二人で渡るシーンなど素晴らしいシーンも多かったです。西島秀俊の存在感もいいし、わたしとしてはあのラストシーンは感動的でした(自分教になれということとは、別のものとして受け取りたい)。