行ったり来たり

ジョアン・セザール・モンテイロ監督「行ったり来たり」を日仏学院で。モンテイロ自身が扮するストア派的な主役の老人が魅力的。それに関して、上映後ちょっとした集まりで偶然お話をうかがえた映画評論家の方は「演劇的な感じがした」とおっしゃってましたが、確かにそうかも。
でも個人的に、冒頭のカメラが噴水をめぐっている時にモンテイロが近づいてきて鳩の群れが飛び立つシーンや、少女がカメラのまわりを自転車でぐるぐると繰り返し回りながら横切り、しまいにそれにモンテイロがくっついて走り出すというほんとに素晴らしいシーンは、映画でなければできない感じがしました。
ある時は光に充ちた路地で軽やかに手を開き、ある時はバスの中でしきりに上方を見上げるモンテイロの様(おそらく、バスの中をこの上なく魅力的に撮った映画のひとつとして記憶されることになるでしょう)は、生と死の淡いを「行ったり来たり」する(「死は存在しない」という台詞がある)映画の様を思わせるし、映画の最後でモンテイロがそれまでたびたび座っていた樹の上に少女ダフネがいたことがはじめて映され、「いつもいるけど、影しか見ることができないの」というようなことを言っていたのは、まさに映画のことについて語っているのでしょう。
音楽もいい。映像の質感的にペドロ・コスタを思い起こさせるのは、両者ともポルトガルというこちらの予備知識によるものですかね(カメラマンとかわかりませんが)? あんなユーモラスなじいさんがいて光に充ちたポルトガルに行きたくなってきたよ……。